ちょっと面白い視点

半年ぶりに投稿したと思ったら、連投で申し訳ありません。前回、トレンドに乗ってCOVID-19について言及したのですが、少し面白い症状が指摘されています。SARS-CoV-2は肺炎を起こすことで、特に高齢者や持病(高血圧、糖尿病、呼吸器疾患など)を持った人に恐ろしいウイルスだと考えられていますが、重症度との関連は不明だが嗅覚障害(一部味覚障害も)を惹起することで話題になっており、感染者のスクリーニングに使えるのではないかとの意見もあるらしい。

実は生理学の授業では特殊感覚についても講義しており、最も古典的ながら何度教えても感動的ですらある視覚(主に色覚)に加えて、味覚(食物栄養学科なので当然です)や嗅覚の勉強もしているのです。嗅覚受容体の遺伝子(フェロモン受容体遺伝子は含みません)はヒトで350種類位あり、なんと1兆種類の匂い(化学物質)を識別できると考えられている。30年位前に遺伝子が単離され、その10年後(つまり今から20年位前)にノーベル賞を受賞した画期的な研究成果である。嗅覚受容体遺伝子の単離から遅れること約10年(つまり今から約20年位前)、味覚受容体の遺伝子が単離された。こちらは5つの基本味を識別するが、数はうんと少なく苦み受容体遺伝子が数十あるのが特徴です。

さて、この嗅覚受容体遺伝子や味覚受容体遺伝子は嗅細胞や味細胞以外の全身の臓器・細胞で発現していることは、遺伝子単離からほどなくして判明しており、それほど新しい知見という訳でもない(まあそれでも新しい)。これらの受容体に共通することは膜七回貫通型GPCR(読み飛ばしてください)で、化学物質と結合する化学センサーだということである。甘味受容体は血糖値を感知する脳や膵臓に発現しているし、苦味受容体は上気道や肺に発現して感染防御に働いている。嗅覚受容体も脳、心臓、腎臓、肺、筋肉、血管などに発現がみられる。血管と言えば、光受容体(視覚(色覚)受容体もその一種)も血管に発現していることがわかっています。話を嗅覚受容体に戻すと、嗅細胞以外の働きで有名なのは、精子に発現して卵子まで泳いでいく例や、腎臓に発現して血圧制御に関与する、腸内細菌が生成する短鎖脂肪酸と結合するといった話題でしょうか。

前置きが長くなりましたが、嗅覚受容体は肺神経内分泌細胞に発現し、煙草の煙や排ガスなどに含まれる化学物質(匂いのもと)を感知すると、セロトニンや神経ペプチドなどの生理活性物質を放出し、咳や喘息を誘発すると考えられています。COPD患者(喫煙と大きな相関関係があります)の肺組織には嗅覚受容体が多く発現していることも報告されています。SARS-CoV-2が嗅覚受容体や味覚受容体を介して感染しているなんて考えるのも面白いかもしれません。少し食物栄養学科のイメージが変わりましたか?色々な科学が学べる学科だと思います。

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